皆さんは困った時に周囲の人に助けを求めていますか?
今日は、困った時に周囲の人に助けを求めるスキルこそ、ソーシャルスキルの中で最強のスキルと言われていてるのでご紹介したいと思います。
1.ヘルプシーキング
皆さんはヘルプ−シーキング(help-seeking)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
直訳すると「Help」「Seeking」で助けを探し求める。つまり、この言葉の意味は、一人で抱え込まず、周囲に助けを求めることです。
社会学や医療・保健分野で研究が始まり、現在では企業の研修でも取り扱われています。
1)社会学と医療・保健分野のヘルプシーキング
この分野での研究は、Talcott Parsonsの「社会システム論」(Parsons 1951)から始まったとされます。Parsonsは「医者役割」,「病人役割」という概念を提示しました。これは「医者」は援助するものであり、「病人」は援助されるものをあらわします。病人は心身の不調があり受診すると、その後は「患者を助ける資格」を唯一もった医者の指示に従う事が必要なのです。もし病人が治療に納得がいかなくても、医者の指示に従うことが求められました。
しかし、この論文から50年が経ち、現在の医療現場では多職種連携のチーム医療の必要性がさけばれるようになりました。従来の「へルプシーキングの規範モデル」での「医者」と「病人」の二者間だけは不十分であり、病を持った当事者をとりまくコミュニティ、家族や友人を巻き込んだ次世代の「ヘルプシーキングモデル」が求められています。
2)企業分野のヘルプシーキング
今、企業においては、このスキルが、リスク管理の観点だけでなく、業務改善・エンゲージメント向上(モチベーション向上)・人材育成や定着の観点でも注目されています。
多種多様な人材が働く職場において、育児・介護、本人や家族のケガや病気、想定外の業務トラブルなど、不測の事態が起こるのが当たり前です。こうした状況において、不測の事態が起こること自体が問題なのではなく、チームとしてその不測の事態をカバーできないことが問題なのです。困ったことを一人で抱え込まずに、信頼できるチームに相談し、チームでカバーしていく組織こそが成果を上げられるチームである。また、そういう職場が、あらゆる人材が活躍できる職場だと考えられています。
ヘルプシーキング以外の言葉で似た言葉があります。それが、「援助要請行動」です。次に、この援助要請行動について話していきます。
2.援助要請行動
この言葉は、主に幼児教育等の教育現場で使われる言葉です。しかし、英語にするとヘルプシーキングと一緒で、「help-seeking」となります。
どうして教育現場でこの援助要請行動が重要視されるかというと、援助を求めるスキルを身につけることで、学校生活においてだけでなく、社会に出てからも生き抜くのに必要なスキルだと考えれているからです。
では、実際に教育現場では、どのようにすると援助を求めるスキルが向上すると考えられているのかを話したいと思います。これは、子供だけではなく大人であっても援助を求めるのが苦手な方の手助けになると思います。
1.大人が援助要請をする姿を見せよう
大人が困っている時に誰かに助けを求める姿を見せることで、困った時に他者に助けを求めても良いと認識することが大切です。なぜなら、子どもたちは新しいスキルを身につける時に、身近な大人の行動を見て学ぶことが多いからです。お子さんに「困ったなー。◯◯手伝ってくれないかな?」などど、生活の中で子どもにお手伝いを頼んだり、子どもの前で困ったことをパートナーに頼んでみたりするのも大切なことです。
2.困った時に助けてもらった経験が援助要請スキルの源になる
子ども自身に「助けてもらって助かった」といった経験があることが、実際に困った時に相手に援助を求めようと思う気持ちの源になります。逆に、「困った時にだれも助けてくれなかった」「援助を求めたのに断られた」といった経験が重なると、援助要請する気がうせてしまいます。子どもの様子をよく観察し、「どうしたの?」「大丈夫?」などと適宜声かけをしながら援助を求めやすい雰囲気づくりが大切です。
3.援助要請の仕方を事前に具体的な言い方とともに伝える
もし困るようなことがあったら、どのように行動すれば良いのかといったことを事前に伝えてあげることが大切です。大人もそうですが、自身が困った状況では頭がそのことでいっぱいになっていて冷静に物事が考えられなくなることが多いです。そのような状況で、「だれに」「どのように」言えばいいのかを考えることは子どもにとっては負担が大きい場合があります。
例えば、「困ったら手をあげて先生をよんでね」「困ったらお母さんに『どうやるの?』って聞いてね」など、具体的な行動・言い方とともに伝えます。それを繰り返すことで、下記のスキルが身に付くと考えられます。
1)援助を求める相手を見極めるスキル
2)援助を求めるタイミングを見極めるスキル
3)援助をどのように伝えるかというスキル
4.援助を求めることができた姿をほめよう
援助を求めることができたら、その場ですぐに援助要請の行動をほめることが大切です。相手に援助を求められたことに対して「それでいいんだよ」「手伝ってあげるよ」といったメッセージを伝え続ける事が重要です。それを続けることで、先ほどの2番で話した「困った時に助けてもらった経験が援助要請スキルの源になる」に繋がるからです。
3.自己肯定感と傷つきやすさの仮説
困った時に助けを求めるスキルは、このように幼児だけではなく大人になってからも必要なソーシャルスキルだという事がわかりました。
しかし、困ったことに自己肯定感が低い人は援助を求めることができず、反対に、自分に自信がある人ほど他者に援助を求めることができることがわかっています。これは、「傷つきやすさの仮説(vulnerability hypothesis; Tessler & Schwarz, 1972)」で発表されました。
この研究結果では、自己肯定感が低い人は「この仕事ができません、どうやったらいいですか」と質問したら、きっとこんなことも分からないのかと思われるのではいかと思い質問できない。また、困っている時に助けられることを、人に施しを受けるように感じたり、助けてもらうと惨めになると考えたりします。
このことから、助けを求めるスキルの向上だけではなく、自己肯定感も支える支援も必要と考えらえています。
4.ヒース・レジャー
話は変わりますが、ここで少し考えて頂きたく症例を紹介します。 オーバードーズ(OD)、すなわち、薬の過剰摂取が疑われる症例です。
2008年公開のアメリカ・イギリスの共作映画『ダークナイト』の主演俳優、ヒース・レジャー(Heath Andrew Ledger)をご存じでしょうか?私は、恐ろしそうな映画なので、まだ観る機会を逸しています。(;’∀’)
本来、彼の性格はあがり症で、それを押し殺して俳優業を続けていたそうです。しかし、バッドマンの悪役であるジョーカーを演じる仕事がオファーされます。それが上記の『ダークナイト』です。ジョーカーといえば、大物俳優のジャック・ニコルソンが有名です。そんな大物俳優が演じてきたジョーカーを、しかも主演で演じるにあたり、彼は一か月間ロンドンのホテルに閉じこもり、外界と断絶します。そして、サイコパスの本を読んだり、サイコパスの心理を模索する日々を続けたのです。そして、出来上がったのがあの『ダークナイト』です。
この作品で彼はアカデミー助演男優賞、ゴールデングローブ賞 助演男優賞、英国アカデミー賞 助演男優賞など主要映画賞を総なめにしています。しかし、第81回のアカデミー賞の授賞式の前に彼はこの世から旅たちました。死因は、睡眠薬等の薬物併用摂取による急性薬物中毒で急死したのです。
亡くなる前に、とある新聞に「先週はたぶん平均して一晩2時間しか寝ていない。いろいろ考えると眠れないんだ。僕の身体はクタクタなのに、僕の精神はずっとギンギンに起きている」と語って、1時間ほどのその仕事中にマイスリー錠(酒石酸ゾルピデム)を2錠服用したと話したそうです。
私のtwittereのフォロワーさんの中に、心身が辛くてOD(薬の過剰摂取)する方が結構の割合でいらっしゃいます。なので、このヒースさんを他人事とは私は思えずにいます。
もし、ヒースさんに助けを求める力があったら、受診行動をとるなり何らかの対処が出来たと思われます。また、ヒースさんの周囲の人が眠れていないと気付いたならば、受診を促したり、無理やりでも入院して休ませる対処方法をとれたかもしれません。
私が言いたいのは、助けを求めるスキルと周囲が助けをキャッチするスキルのいずれも重要ということです。
助けをキャッチするとは、私が勝手に作った造語です。助けてと声に出して助けを求めていなくても(バーバルコミュニケーション)、助けて欲しいのではないか?困っているのではないか?と表情や行動(ノンバーバルコミュニケーション)を読み取って、言葉にならない助けてをキャッチするという意味です。
この世の中は、助けを求めるスキルが高い人ばかりではありません。助けを求められないから助けない!といった環境ではいけないのです。助けをキャッチするスキルも私は重要と考えています。
5.おわりに
健常者も障がい者も区別なく、困った時に助けを求めるスキルを向上させることが大切です。特に、障がい者では、健常者のように出来ないことが多いと考えられます。このスキルを伸ばして、少しでも生きやすい環境を整えていきたいですね。
また、助けを求めやすい環境づくりは医療現場、教育現現場、企業問わず必要です。そして、自己肯定感が低い人は助けを求めにくいので、周囲の人は「大丈夫?」「困ったことはない」など気にかけていることを相手にメーセッジで伝えると良いでしょう。そうすることで、助けを求めやすい環境になると共に、声かけしている側も「今日はいつもと違うな」「今日は調子が悪そうだ」といった助けをキャッチするスキルが向上すると私は考えます。
では、今日はこの辺で終わりにしたいと思います。
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参考:
1.石黒良和1・榎本玲子2・山上精次3・藤岡新治3:『援助要請と生活適応感の関連性~自尊感情と他者軽視の観点から~』(専修人間科学論集 心理学篇, 2016)
2.菊澤 佐江子:『ヘルプ-シーキングと家族・コミュニティ : ネットワーク-エピソードモデルの意義と可能性』(社会志林,2010)
3.法人研修サービス 株式会社NOKIOO
ヘルプシーキング行動力~助け合いながら成果を上げるチームづくり~|カリキュラム|株式会社NOKIOO 法人研修サービス
4.
援助を求めるスキルは、究極のソーシャルスキル – いつものクラスでソーシャルスキルトレーニング – 明治図書オンライン「教育zine」 (meijitosho.co.jp)
5.楠甘
助けてほしいと言える?助けを求めるというスキル – 不器用な生き方をやめたい (hatenablog.jp)
6.ゆう(言語聴覚士・小児専門)
困った時に助けを求める:援助要請スキルを育てるための関わり | はぐくみブログ (hagukumi-net.com)
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