私は、実際に看護師として働いている現場で、オーバードーズの患者さんが救急搬送をされてきて、胃洗浄を医師と一緒に行ったこともあります。そして、twitter内ではオーバードーズでお亡くなりになられた方、救急搬送された方をみてきました。
今日は、オーバードーズをやめなければいけない理由と、オーバードーズがしたくなった時の精神科医がオススメする対処法についてお話ししたいと思います。
1.オーバードーズとは
オーバードーズの語源は「over dose」で、過剰摂取という意味です。略称はODと言います。これは、幸感感を得て精神的な苦痛から逃れようと、医師が処方した薬やドラッグストアで買えるせき止め薬などを大量に摂取することを言います。
薬物依存で治療を受けた10代が何の薬物を使ったのか、その割合を見てみると、2014年までは危険ドラッグがもっとも高く、市販薬を使用する若者はいませんでした。しかし、市販薬の割合が年々増加し、2020年の調査では半数以上を占めていることが分かりました。
また、2021年7月1日にはNHK首都圏ナビが『オーバードーズがやめられない 市販薬を大量摂取する若者たち』という特集をくみました。
そして、2021年9月11日付の産経新聞の記事によると、
新型コロナウイルス禍の長期化で、せき止めや風邪薬などの市販薬を乱用する依存症が深刻化している。若者でも入手しやすく、いらだちや不安などを解消するために大量摂取するケースが増え、支援団体への相談も後を絶たない。
と取り上げられました。
専門家は「コロナ禍で他者とのつながりが希薄となり、孤立が深まることで、自殺者の増加など依存症問題が広がる可能性をはらんでいる」と危機感を強めています。
2.オーバードーズをする人の背景と特徴
1)オーバードースをする人の背景
誰でも不安やストレスにより、オーバードーズを起こすことがあるとされています。しかし、その中でも、特にオーバードーズに陥りやすいと言われているのが下記の背景を持った人達です。
背景に以下のようなことがあるとODのリスクが高いとされています
①自己切傷・過量服薬の既往
➁物質使用障害の存在
③パーソナリティー障害の存在
④摂食障害の存在
⑤トラウマ関連障害の存在
⑥家族と同居していない
(同居していても無理解や陰性感情に曝されており、本人が主観的に孤立無援感を抱いている)
⑦直接・間接に深刻な暴力に暴露された経験を持つ
これらの人達は、心の問題を抱えており、その問題が解決されないとオーバードーズを根本的に治癒するのが困難とも言われています。
2)オーバードーズをする人の特徴
現在、新聞やテレビで指摘されているのが、オーバードーズをする人たちが、自らの行為をSNSに投稿するケースが多いことです。これは、オーバードーズをする人の大きな特徴の一つと言われています。
薬物依存の治療に詳しい国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦医師は、前述の2021年7月1日にはNHK首都圏ナビの『オーバードーズがやめられない 市販薬を大量摂取する若者たち』において、
「現実世界でうまくいかない人たちが、SNSの世界でオーバードーズを繰り返す人のサークルに入る事によって、人とつながる事ができるんです。さらに、より多くたくさん飲む人がその世界のヒエラルキーの中で上にきて、崇められたり尊敬されたりするっていう事態も生じていて、リアルでうまくいかない人たちがそこで評価されて、承認欲求を満たしているところもあると思います。SNSの世界にはまり込んで、問題行動をどんどんエスカレートさせてしまうこともあります」
と述べています。
私は松本医師の意見とは少し違って、twitterをして感じるのは、「崇められたり」「尊敬されたり」という感じよりも、他者から「心配されたい」、「無償の愛を受けたい」「他者とつながりたい」という、やるせない気持ちがあるのではないかと思いました。
実際に、オーバードーズをしているフォロワーさんに「貴方の肝臓や腎臓が心配、何より貴方の命が心配」とツイートすると、「そういってくれて有難う」と返ってくるのです。オーバードーズを繰り返す人達は、何の見返りもない「心配する」という無償の愛に飢えているように感じてならないのです。
3)オーバードースをする時の気持ち
精神科医の説明では、オーバードーズは「死にたい」という自殺の目的よりも「とにかく現実から逃げたい」「ここから消えてしまいたい」といった逃避の気持ちから行われることが多いようです。精神的に不安定で冷静ではいられない時に、「現実を忘れたい」「楽になりたい」といった気持ちに押しつぶされてしまうと、オーバードーズという行為に走ってしまうことがあると言われています。
実際、私のtwitter仲間も将来の夢をtwitter内で色々と語っていたのに、夢を語っていたその日の夜にオーバードーズでお亡くなりになられました。ご家族の話では「主治医も、きっと死にたかったのではなく、夜に辛くて衝動的にしてしまったとのではいか」とのことでした。
3.オーバードーズの後遺症
市販されている薬とはいえ、過剰に摂取することは体に大きな影響を及ぼします。
1.薬物依存
風邪薬や咳止めの中には麻薬と似た成分もある
2.肝不全
アセトアミノフェンによる肝不全が原因で亡くなるケースも少なくない。
3.致死性不整脈
市販薬に含まれるカフェインの大量摂取によるもので、心停止する危険がある。
4.誤嚥性肺炎
意識消失した際に肺に唾液が入る。
5.横紋筋融解症
筋肉痛や脱力を生じる病態で、そのまま放っておくと、起き上がることや歩行が困難になる。
また、腎不全などを合併し、回復に長期間を要すことがあります。
6.急性腎不全
時として命にかかわる病気であり、進行すると慢性腎臓病になる。
7.上肢切断
オーバードーズ後に眠ってしまい、数日間片側の腕が圧迫されて壊死し、切断に至ったケースもあり。
今は身体が大丈夫だからといっても、あなたの身体には大きな負担がかかっている事を忘れてはなりません。
オーバードーズをした身体は、一体何が起こっているのかを分かりやすくした資料としてyoutubeの動画を紹介させてください。『はたらく細胞BLACK』でオーバードーズを取り上げていました。どうか、ご自身の身体をいたわってください。
因みに、『はたらく細胞BLACK』単行本でのオーバードーズの回は、6巻です
4.医師が語るオーバードーズを防ぐには
1)オーバードーズの衝動は長くは続かない
精神科医のmasato先生によると「楽になりたい」「薬をたくさん飲んで全てを忘れたい」という強い衝動は長く続かないということです。
ほとんどの場合、非常に強い衝動が持続するのは数十分程度であり、そこを乗り越えればオーバーオーズ衝動は消えてはいないものの、なんとか理性にて制御できるレベルにまで自分を取り戻します。
そのため、この数10分をオーバードーズせずに何とか乗り越えることは非常に重要になってきます。
「オーバードーズしたい」という衝動に駆られても、「10分だけ我慢してみよう」とわずかな時間でも我慢してみることは非常に意味があることです。また、周囲も少しでもいいから話を聞くなどして時間を引き延ばす方法は、実はとても有効なのです。
2)小さな手間でオーバードーズはしにくくなる
オーバードーズは辛い気持ちに押しつぶされて、「オーバードーズする以外にここから逃れる方法がない」という気持ちから行われます。積極的にオーバードーズをしたいわけではなく、他に方法が思い付かないため止むを得ず選択される方法なのです。
積極的に行われる行為ではないため、ちょっとした障害でもあれば、それだけでもオーバードーズを思いとどまる材料になります。
その思いとどまる方法を、次にmasato先生とさくら先生のふたりの精神科医の先生から教えてもらいたいと思います。オーバードーズを思いとどまるちょっとした工夫の中から、あなたも実践できる工夫がみつかると思います。
3)masato先生流、オーバードーズを防ぐ5つの工夫
(1)家族に薬を管理してもらう
家族の方がお薬を管理してくれれば、必要以上に飲むことができなくなるため、オーバードーズのリスクが大きく低下します。またご家族がお薬を本人に渡すときに精神状態のチェックも行えるため、患者さんの精神状態が不安定ではないかどうかを把握しやすくなります。
常にご家族がお薬を管理するというのは大変なので、特に精神状態の悪い期間だけ家族にお薬を管理してもらうようにするという方法でも有用です。
(2)粉薬にしてもらう
これは、masato先生が臨床現場で思いついた方法です。錠剤は一気に何十個も飲みやすいのですが、粉は何十回分も一気の飲むことはなかなか難しい。また、粉薬は服薬に当たってある程度の水が必要になるため、これも1つ手間になります。ただし中には粉薬にすることができないタイプのお薬もありますので、主治医とよく相談してみてください。
(3)受診間隔を短くする
毎週受診するようにすれば、手元には最大でも1週間分のお薬しかないことになります。持っているお薬が少量だと、オーバードーズするリスクが少なくなりますし、また万が一オーバードーズしてもその被害も少なくなります。また受診間隔を短くすれば、より短いスパンで主治医に相談できるようになるため、これも安心感につながります。
(4)日頃からストレス解消法を持っておく
オーバードーズしやすい方の多くは、ストレスを溜め込みやすい傾向があります。日頃から定期的にストレスを解消していないがために、溜め込みきれなくなったストレスが噴き出し、オーバードーズに至ってしまうのです。ストレス解消法は人によって異なるため、「これをすれば絶対にストレス解消になるよ」というものはありません。しかし、必ず自分のストレス解消法があるはずです。
(5)我慢せず周囲に助けを求める
どうしてもつらい時は周りに、「つらい」「助けて」「話を聞いて欲しい」と助けを求めましょう。「そんなこと言ったら迷惑だと思われる」なんて思ってはいけません。
周囲の人からすれば、何の知らせもなく、ある日突然オーバードーズされてしまう方が悲しく感じてしまいます。身近な大切な人が突然オーバードーズしたら「なんで私に相談してくれなかったの・・・」「そんなつらいなら言ってくれれば・・・」と思うでしょう。あなたの周囲の人だって同じことを思っています。
さくら先生流、オーバードーズの防ぎ方
「辛さ」「苦しさ」を和らげる方法が沢山りますが、「辛い」⇒「即オーバードーズ」といった方は苦痛を感じた時の対処スキルが低いと指摘しています。オーバードーズでの「辛さ」の対処法は即効性があるが高リスクです。リスクを伴わない対処法を身につけることが必要です。
下記の「辛さを和らげる対処法」の中から貴方の出来そうな行動を普段からいくつかとってみてください。そして、色々試した中からこれが良いというものを、オーバードーズの衝動が起こりそうな時に行い、辛い10分を乗り越えてみてください。
・マインドフルネス
・セルフコンパッション
・瞑想
・散歩に出る
・音楽を聞く
・アロマをたく
・チョコレートをひとくち食べる
・好きな動画を見る
・心地よいモノに触れる
・セルフハグ
・家族や支援者に電話する
・塗り絵などのちょっとした作業をする
私がやっている辛い時の乗り越え方
これは、若い方に合わない方法なのかもしれませんが、一応ご紹介させて頂きます。私は双極性障害を持っているので、うつが酷い時は希死念慮に悩まされます。その時に行っているのが、般若心経を唱えるというものです。
実際には丸暗記していないので、「五蘊皆空」(ごうんかいくう)とここだけ唱えています。そしてたまにお経の最後のマントラ部分の「羯諦羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶 般若心経」(ぎゃーていぎゃーていはらぎゃーてい はらそうぎゃーてい ぼじーそわか はんにゃしんぎょう)も唱えます。(^^;
これはおまじないでしている訳ではなく、私の場合は「死にたい」「苦しい」といった五蘊はすべて「空」
なのだと自分に言い聞かせているのです。IKKOさんの言う「まぼろしー」と一緒です。
今風に言えば、脳がバグって「死にたい」と思わせている、「死にたい」は自分の気持ちではない、自分が作ったまぼろしーってところでしょうか。
しかし、全く同じこの方法で「死にたい気持ち」を乗り越えているご年配の紳士(双極性障害)さんにお目にかかりました。驚きました。(@_@) そして、主治医にこの方法で乗り切っていることを伝えたら褒められました。(๑•̀ㅂ•́)و
なので、自分なりの対処法をみつけるのが良いと思います。
6.専門家に頼る
オーバードーズをすることに罪悪感を抱く患者さんは多いです。そのため、正直に医療者や支援者に伝えられないケースもあるでしょう。
しかし、今これを読まれている方で主治医や支援者に相談できていない方は、オーバードーズへの依存が著しい場合は専門の治療期間での治療も必要になってきますので、ご自身のためにも相談されてください。
7.終わりに
今回、どうしてもこの内容を書きたかったのは、市販薬でも身体に影響があるんだという事を伝えたかったのです。そして、このブログで紹介したオーバードーズの防ぎ方を実践し、これで衝動を乗り越える術を得られることを祈ります。
最後に、「あなたは、オーバードーズする悪い人では決してありません。」「オーバードーズしないといけないくらい追い詰められている人なんです。」どうか、専門家に頼ってください。そして、周囲の人に助けを求めてください。お願いします。
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参考:
1.有賀菜央(NHK首都圏局 ディレクター)
オーバードーズがやめられない 市販薬を大量摂取する若者たち | NHK
2.Masato(せせらぎメンタルクリニック院長:精神科医)
オーバードーズ(OD)を防ぐための5つの工夫 (seseragi-mentalclinic.com)
3.南中さくら(さくらこころのクリニック:精神科医)
双極症、うつ状態での「過量服薬(OD)」がやめられない人への改善のヒント。 | 兵庫県三田市の心療内科・精神科ならさくらこころのクリニックへ (sakura212.com)
4.産経新聞(2021/9/11 21:38)
若者襲う市販薬依存 せき止め100錠乱用も – 産経ニュース (sankei.com)
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